技術をかじる猫

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ビジネスダッシュボード 設計・実装ガイドブック(4)

概要

white-azalea.hatenablog.jp

これの続き。

第四章「ダッシュボード設計」

詳細設計はざっくり「分析設計」と「デザイン」の2つに分かれる。
第四章は、分析設計の内容。

極論すると、詳細設計は無くてもいいが、本当に使いたいダッシュボードに近づけるという意味ではやった方がいいそうな。

  • ダッシュボードを見たときに問われる疑問は何か
  • そのためにどのような指標を見るだろうか?
  • どのような軸と切り口で見れば、それが解決できるだろうか?

という分析要件がある。
これは誰がどう使うか?という要件定義だけでは見えてこないとのこと。
しかし、要求定義・要件定義の中に、視点のヒントはあるので、ここから分析要件を想定する。

分析設計

ダッシュボードの詳細は「ダッシュボードで実施する分析の内容と、それによって実現する分析体験」を設計すること。
ここでは分析の内容のみをまずは検討する。

ダッシュボードの内容を検討する際に以下を念頭に置く。

  • 分析で明らかになる事実が業務の意思決定に役立つか
  • ユーザびデータ分析の能力に対して、過剰な情報量・粒度設計になっていないか

詳細設計の項目は

  • ダッシュボード名 : 商品販売実績等
  • チャートエリア名 : 商品別販売状況分析エリア
  • チャートの役割 : 売れ筋商品把握
  • チャートの指標 : 売上/販売数/決済回数
  • チャートの比較軸 : 商品カテゴリ/商品名
  • チャートの形式 : 横棒グラフ/パイチャート等
  • フィルター要素 : 集計期間, カテゴリ
  • データマート*1 : チャートが参照するデータマート
  • 指標の計算ロジック : 指標の計算方法。SQL 等で記述しておくことが推奨される。売上 = SUM(販売履歴.売上)
  • 指標の目標設定 : 指標に目標を設定するかどうか、目標値を設定する場合はその値と粒度。

これを元に、テーブルを作成して

ダッシュボード名 チャートエリア名 チャートの役割 チャートの指標 チャートの比較軸 チャートの形式 フィルター要素 ...
商品販売実績 KPI状況分析 ビジネス状況に問題がないか? 売上 - 数値 売店の地域、商品カテゴリ
販売数 - 数値 売店の地域、商品カテゴリ
KPIの時系列トレンドに想定外の変化がないか? 売上 時系列(年/月) 折れ線グラフ 売店の地域、商品カテゴリ
販売数 時系列(年/月) 折れ線グラフ 売店の地域、商品カテゴリ

仕様を整理して、ユーザと設計者の認識ずれを確認しよう。
これには以下の効果が見込める

  • 設計から漏れてる分析要件の検出
  • どのデータを使うかの問い合わせが最小限になる
  • どの形式のチャートを作成するか、問い合わせが最小限になる
  • 指標の計算ルールがあらかじめ定義できるので、認識誤差を防げる

ワイヤーフレームモックアップでイメージの共有

これはダッシュボードにかかわらず、Web システムなら全般的にやること…
上記の詳細設計だけでイメージが共有できるわけもなく…

そこで、実際のデータではなく、偽のデータで画面イメージやレイアウトを作成(モックアップ作成)して、どの様に見える予定なのか、どう思い、何が知りたいのか?をヒアリングしていく。

分析設計に必要な知識

  • チャートを構成する要素
    チャートを構成する要素は「集計条件、フィルター条件、グラフの種類」
    分析設計ではこれらを 1 セットでダッシュボードの詳細設計に記載する。
  • データ分析の目的
    極論すると、ビジネス成果と意思決定に必要な判断材料。
    ここから逆算して分析要件を考えるべし。
  • 意思決定のパターンとプロセス
    意思決定パターンはざっくり4つ
    • 現状に対する意思決定(維持、中止、見直し)
      現状の把握:目標との乖離を見て判断することが多い
      指標の推移:増減の傾向、トレンドによって判断。要因分析するかを検討する。
      指標の予測:今後の推移と着地点を予測し、目標との差を見積もる。
      異常の察知:数値の推移に大きな変動があるかを確認し、要因分析するかを検討する。
    • 選択と集中 : リソース(予算、人材、商品)を効果的に分配する
      • パフォーマンス*2、ポテンシャル*3の精査:投資効果、期待値から判断
      • 改善点の抽出: 課題に対して軌道修正可能な改善点がないかを確認
    • 新たなプランの実行 : 新しい戦略・施策を立案
      • ビジネス成果への影響要素(顧客属性や商品、店舗等)の確認
      • 有効なセグメンテーション*4の発見
      • 特徴的な行動特性の発見(顧客の行動傾向や、行動が起こる起点の確認)
    • 評価と改善 : 実行した施策の評価と改善検討
      • 施策の詳細評価 : 目標や施策の目的と照らして確認(KGI/KPI の達成状況や、ターゲットが予想通りの反応をしたかどうかなど)
      • 改善点の抽出 : 目標との差から必要な改善の規模を予測。これに誰をどう動かすかの検討。
  • 4つの分析タイプ
    • 事業の状況把握と改善か所の特定
      • 現状診断型 : KPI/KGI の数値と推移を把握して診断する。現在値、目標値の比較と、過去の同時期比較、時系列でのKPI推移等。
      • 課題特定型 : KPI/KGI を事業、商材、場所等の業務上区分に分解して評価し、課題を洗う
    • 戦略や施策立案に役立つ特徴・特性の発見、検証
      • 特徴・特性の探索 : 施策の成果や顧客の行動などについて、比較軸を変えながら分析(試行錯誤)し、戦略や施策の立案に役立つ特徴・特性を見つける。※試行錯誤することが多い分析なので、事前に分析軸を決めるダッシュボートとは相性が悪い…かろうじて、集計条件やフィルター条件をある程度変更できるようにしておく位の事ならダッシュボードでも可能なので、その範囲で検討する。
      • 戦略・施策評価 : 特徴・特性を元に立案された戦略・施策が想定通りの成果を出したか判定する。例えば「30 代の女性向けの施策を打った反応は?」といった顧客の特性に向けた施策の効果測定を行う。
  • ダッシュボードの種類と分析タイプの適正 ダッシュボードはざっくり「全体サマリ」「テーマ別」「詳細分析」があり、4つの分析タイプとの親和性がある。

    全体サマリ テーマ別 詳細分析
    現状分析
    課題特定 〇-◎
    特徴・特性の探索 ×
    戦略・施策評価 ×

    尚、分析内容の充実と使いやすさはトレードオフの関係なので、どの分析要件をダッシュボードで対応するか、設計者は意思決定が必要。
    (情報サイトと類でもそうだが、商品を見せたい見せたい…と散りばめ過ぎれば、利用者は何を見ればいいか分からなくなるという問題があるが、同じことが起きる)

分析設計する際の思考法

  • ビジネス成果と意思決定から逆算する
    以下のステップを踏む
    1. 求めるビジネス成果と意思決定に必要な判断材料から逆算
    2. 指標の検討
    3. 比較方法の検討
  • ビジネス課題の「問い」
    大抵の場合、ビジネス上の状況は分かっているものの、課題が事前に分かってることはなかなかない。
    原則的にビジネス状況から逆算して、課題の仮設を立てる → 仮説に基づいてデータ分析で「問い」を行って検証して答えを探す。
    注意点として、課題の粒度が粗すぎると「問い」が立てられない…例えば「物価上昇で業種全体の利益率が悪化してる」という課題があれば、「自社だけが利益率が低下しているのか?利益率が悪化しているのは特定商品か?商品全体か?」と検証の軸(問い)が出てくる。
    「Webサイトの問い合わせ数が予想より低い」だとソレってただの状況ですよね?課題にしてもらって良いですか?ってなる
  • ダッシュボード設計における課題と問い
    ダッシュボードはそうおいそれと中身を変えれるわけではないので、将来起こりそうな課題の特定や、要因分析に役立ちそうなものはないかのアイディアを出して、分析要件を設計した方がいい。
    そして、ダッシュボードの分析要件は
    ダッシュボードの目的 → 目的に対する課題 → 課題に対する問い → 問いを検証できる分析軸(≒ 分析要件)
    としてまとめることができる。
  • 目標の検討
    分析要件の指標で KGI/KPI を設定するとはいえ、KPI は何処まで広く深く確認するか粒度が不明になりやすい上に、見るべき指標はダッシュボードの目的、ユーザによって異なるので、指標の選定方法がある。
    • 構造を整理し、重要な要素を指標に設定する
      KPI(Key Performance Indicator : 重要業績評価指標) は KGI(Key Goal Indicator 経営目標達成指標) 達成に必要な指標なので、親子関係を整理すると、指標にすべき項目が出てくる
    • 状態や行動の遷移を指標に設定する
      顧客にしてほしい行動と、そこに至る過程を分析する。
      行動プロセスを指標化して遷移状況を分析することは、ECサイトでの商品購入行動のようなWeb上の行動だけでなく、実店舗への来店や製品体験会参加などオフラインの行動など、多くの場合で有効。
      Salesforce でいえばリードですかね。
  • 比較方法の検討
    例年同月の売上と比較するとして、比較方法は
    • 差額
    • 比率
    • 時系列への変化
    • (売上に貢献した商品等)構成比率の比較
    • (客層/客単価等の)分布の比較
    • 関係性の比較: クラスタリングや、相関性の比較等
  • 分析設計の注意点
    • ダッシュボードのユーザに寄りそう:開発側の方が専門的な使い方が出来たりすることから、自分の欲しいダッシュボードを作りがち…戒めよ
    • 初めから完璧は目指さない : ダッシュボードは構築がゴールではないし、ビジネス環境は常に変わる。ブラッシュアップを繰り返すつもりでやらないとリリース時点で既に陳腐化してる…
    • 全ての分析をダッシュボードで完結させようとは考えるな : 必ずしも完璧なデータが手元にあると考えてはいけない。色々詰め込めばユーザビリティは下がるし、どこかにしわ寄せがくる。

所感

詳細設計=ほとんど作るべきもの
だけあって、中身が濃い…

次回も4章の続きをやる見込みです。

*1:ダッシュボード表示を目的とした、日々集計するデータベーステーブルのこと

*2:コストに対する成果

*3:成長余地やコストの回収率

*4:注力すべき顧客群や属性